いまだに音読をやらない人が多数
音読の回数を語る前に、ここまで「音読は不可欠」という指導が広がっていても、いまだに音読を実行する人は少なくて、多くの英語学習者は音読をやっていない、ということを指摘しておきたいと思います。
生徒は主として自宅で英語の音読学習をすることになります。そのような理由で、先生は生徒が音読をしているのかをチェックすることはなかなかできません。ただ、教室で音読をさせると、その生徒が日ごろから自宅で音読をしているのか、分かります。音読の数をこなしている人とこなしていない人は、明らかに読み方が異なるからです。私の塾では、音読が習慣になっている人は残念ながら半分以下です。教室で毎回、音読をするよう指導しても、やらない人はやってくれません。
音読ルームはガラガラ
河合塾が10年以上前から各校舎に「音読ルーム」をつくり、授業で学習した英語を音読してから帰宅するよう指導しています。しかし、昨年1年間、河合塾津田沼校に通っていたアラタ君によれば、音読ルームはいつもガラガラで、音読ルームで生徒が音読しているのを見たことがないそうです。
音読は、スポーツで言えばランニングのようなものです。試合と比べるとランニングはおもしろくないため、自分からランニングをやりたがる人は少数です。音読も同じで、問題を解いて点数を出す方がスポーツの試合に似ていて楽しいので、問題集をやる人は多いのですが、音読を積極的に毎日やる人は少数です。
音読は何回?國弘正雄先生は?
学習した英語の文章のオーバーラッピングは、何回読めばいいのでしょうか(オーバーらピングについては、オックスフォード学院の直近の動画を参照してください)。
20世紀最高の同時通訳かつ英語教育者だった國弘正雄先生の考え方を紹介しましょう。
國弘正雄先生は、戦後直後に高校を卒業してすぐにハワイ大学に留学し、帰国した後は同時通訳の第一人者であり、みずから設立した同時通訳の学校や上智大学などで英語教育にも力を注ぎました。先生が提唱した音読を中心とした英語学習法は「國弘メソッド」と呼ばれています。
さて、この「國弘メソッド」は、英語の音読は何回、と指導しているでしょうか。結論は「1000回」です。國弘先生のベストセラー『英語のはなし方』(たちばな出版)に書いてあります。國弘先生本人は、中高生のころ、2000回から3000回、英語の教科書を音読していたそうです。
1000回なんて無理、と思う人が多いのではないでしょうか。しかし、この1000回という数字は不可能な数字ではありません。1日に20回読む、とすれば、50日で1000回になります。1カ月半ちょっとで1000回になる計算です。
只管朗読を提唱する國弘メソッド
國弘正雄先生は、学習した英文をただただ音読する「只管朗読(しかんろうどく)」という考え方を提唱します。この言葉は、鎌倉仏教の曹洞宗の開祖、道元が提唱した「只管打坐(しかんたざ)」、ただ座禅しなさい、という教えを英語学習に導入したものです。日本史を学習している高校生は、鎌倉時代のところで只管打坐を学習していると思います。
楽をして英語が上達することは絶対にありえない。まず、文法、単語、熟語を学習して、そのあとは、何も考えずにただ英語を音読しなさい。國弘先生は『英語の話しかた』の冒頭で、只管朗読について詳しく論じていますが、その意味は単純なことで、とにかく音読しなさい、ということなのです。
基本の習得に対して甘すぎる人々
『英語の話しかた』から引用します。「英語を習得することに漠然と憧れはするが、これといった成果を上げられない人というのは、基本技術の習得に関して見通しが甘すぎるのです」。「基礎の習熟度に関して謙虚になること、これが飛躍への第一歩です」。
この本は、英文法が英語の習得に不可欠だ、とも述べています。暗唱、暗記、というと、文章を丸暗記すればいい、という解釈もできますが、國弘先生は、文法は必須だ、と言います。
たとえば、I’m sorry to be late. 遅れてごめんなさい、という意味だと考えて丸暗記する際に、to be lateが文法でどのような役割を果たしているのか、まで理解することは不可欠、と國弘先生は言います。to be lateは、to不定詞の副詞的用法であり、to be lateという句はam sorryという部分を修飾している。私が遅れるために、私はごめんなさい、と感じる。このような文法を無視して丸暗記しても、応用がきかないし、英語が上達するようになることはないのです。
1000回読むとコロケーションが記憶できる
私(オックスフォード学院塾長)なりに解釈すると、この1000回という数字は絶対の数字ではありません。1000回音読すると、その英語の文章を完全に記憶することができて、口からすらすら出てくるようになる、ということなのです。
別の言い方をすると、1000回音読すれば、コロケーション(単語相互のつながり)を覚えることができるのです。英語学習の中でのコロケーションという考え方は、近年、駿台予備校の竹岡広信先生らが提唱していますが、國弘先生が『英語の話しかた』の中で、すでに50年前からコロケーションを提唱していたのでした。
4技能を伸ばすために
21世紀になって、英語の4技能ということが盛んに提唱されています。読む、聞く、という受動的な能力だけでなく、書く、話す、という能動的な能力がないと、英語ができる人として認められることはありません。
学習した英語の音読を繰り返して、完全に記憶するところまで到達しておけば、その文章は書いたり話したりすることができる。また、単語や熟語を入れ替えれば、幅広い範囲の英語を書き、話すことができる、つまり4技能すべてを伸ばすことができるのです。
音読をするための前提
最後に、音読をするための前提を2つ、確認しておきましょう。
第1に、音読を繰り返す文章の単語・熟語・文法(構文)をしっかり理解し、できれば内容(筆者がいいたいこと)も理解したうえで音読をはじめましょう。この部分が欠けていると、音読をしても空回りしてしまい、英語力がつきません。
第2に、長文だけでなく、短文の音読もしましょう。短文とは、文法の参考書や問題集に載っている文章、単語集に載っている文章のことを言います。ストーリーがある長文の音読と比べると、短文の音読は、あまりおもしろくありません。しかし、英語の学習は、楽しいからやるものではありません。
國弘先生の口癖の1つに、英語の勉強は厳しくて苦しいもの、というものがあります。自分の将来を切り開くため、世界で活躍するために、たとえ楽しくなくても、苦しくても、英語を学習する必要があるのです。
大リーグの大谷翔平選手は、小学生の時から毎日何キロも走っていた、ということを聞いたことがあります。同級生たちの何倍も走っていたのです。走っている時は苦しかったはずです。楽しくないことも率先してやる人だけが、人よりも優れた結果を出すことができるのです。
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