AI時代でも英語学習は必要?國弘メソッドで考える語学学習の未来

オックスフォード学院

AI時代、英語学習は不要なのか

山本:AI時代は自動翻訳・通訳があるので英語学習は不要だ、という人がいますが、どう思いますか。

飯竹:翻訳・通訳の現場で、自動翻訳・通訳だけを使ったら「製品」にならなりません。最終的には自分で決着させなければならない場面が多いんです。AIが便利な場面もあります。たとえば英語の中に国の名前が20くらい出てくる時は、その部分は自動翻訳が正確に訳してくれるので便利です。ただ、AIは1つの参考資料でしかない。そういう意味では、ネイティブについても同じことが言えて、日本語がちゃんと理解できないネイティブに頼ると、翻訳や通訳は危ない。

AIでは絶対にできないこと

山本:國弘先生の伝記の中に、三木武夫首相就任直後のニューズウィーク(アメリカの週刊誌)のインタビューの際の逸話が載っています。三木首相本人は、予想しない「椎名裁定」で首相になったため、決定直後のインタビューで語る言葉を準備することができておらず「いやー、どうも、びっくりして…」というような不明瞭なコメントを三木首相がしたところ、國弘先生は「小さいボートで大海に乗り出すような気持ち」と英訳。本人はまったく発言していなかった言葉だったのですが、掲載された記事を見て三木首相は喜んだそうです。こういうことは、AIは絶対にできませんよね。

飯竹:本人と通訳者の信頼関係、そして過去の発言との整合性などを瞬時に考えたんでしょうね。通訳の現場で、それに近いことを経験することはあります。

山本:三木首相は國弘先生に絶大な信頼を置いていて、通訳する際に「何を付け加えてもいい」と言われていたそうです。

飯竹:通訳・翻訳の仕事をしていると、英語ができなくてはいけないのはもちろんですが、日本語も非常に重要です。外国人が日本に来て対談などをする時に「私は日本語があまりできないので(会話が英語になることが)申し訳ない」ということを冒頭に言うことがありますが、これを國弘先生は次のように訳したそうです。「惜しむらくは、私の日本語に若干の不備がございまして」。日本語として美しい通訳ですね。

今の英語学習の中の國弘メソッド

山本:同時通訳の訓練の1つとして、リプロダクションというものがあるそうですね。

飯竹:一定の量の英語を聞き、それをそのまま繰り返す、または趣旨を変えないで正確に言い換える。これがリプロダクションという練習で、同時通訳の学校に通っている人がいちばん苦労する訓練です。リプロダクションは、言えるようになるまで繰り返し練習するので、國弘メソッドが入っていますが、それに付け加えて、通訳に不可欠が記憶の訓練でもあります。非常に愚直な訓練です。

山本:今、愚直、という言葉がありましたが、英語の学習に「コスパ・タイパ」がいい学習法を探し続ける人がいますが、言語の学習に「コスパ・タイパ」がいい学習法というものは存在しますか。

飯竹:英語・フランス語を学んでから、かなりあとにスペイン語を勉強したことがあります。この時、まず1~2カ月は徹底的に音を聞きました。音に慣れてきてからは、まさに國弘メソッドで文章を繰り返し音読する、という勉強を始めました。

山本:私も、30代になってから、当時勤めていた朝日新聞から「ドイツ語をやれ」と言われてドイツに行きました。この時、毎日1時間以上、ドイツ語を聞く、ということからスタートしました。徹底的に音を聞く。口から音を出す。この時にやっていたことは、國弘メソッドだった、と今になって思います。

英文法、そしてリモート英会話

山本:4年前、大学入試共通テストで英文法の形式の問題が出なくなったころから「英文法の学習は不要」という声が大きくなり始めましたが、どう思いますか。

飯竹:英文法は、便利なツールだと思っています。英文法そのものが目的ではないけれど、英語を理解するための手がかりであり、ツールです。文法を頭に浸み込ませて、意識しないところまで持っていくことが必要です。例えば、三人称・単数・現在の「s」。sがないことが不自然だ、と思える、ということは必要です。

山本:英文法不要論とも関係があると思うのですが、このごろ、リモート英会話が流行していますよね。時差がないアジアの国の、たとえば大学生と30分とか1時間、英語で話すことで英語は上達する、と考える人が増えていますが、どう思いますか。

飯竹:技術の進歩でそのような英会話の練習ができることは、いいことであるのは間違いない。でも、いきなり英会話をすれば英語ができるようになる、というのは嘘です。英会話の練習をする前に、単熟語や文法の学習の積み重ねがあって、はじめて上達するわけであって、どこまで事前の準備をするのかが重要です。

(今回は40分を超えるもりだくさんの内容です。ぜひ、動画をご覧ください。)

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